東海テレビが毎年正月に制作するローカルテレビ「おかえり」は、出演者の好演と地域を美しく切り取った映像美が相まって、久しぶりに好感の持てるドラマだった。かつての清純派女優大塚寧々が女将しのぶとして仕切る伊勢河崎の民宿宿が舞台。勝気な女子高生なつみー本田望結が手伝いながら、家族的な雰囲気でなかなか人気。絵を描きながらヨーロッパ放浪中の父がたまに絵葉書を送ってくる程度で、気ままな性格を二人も放任中。なつみは、父の影響か絵が好きで、高校で絵画クラブに属しているが応募したコンクールで入選、担当教師から東京の美大に推薦するといわれる。これがなつみに心の揺れをもたらす。母を支えながら民宿を続けたいと心に決めていたのだ。勝気で負けず嫌いななつみは、同じく勝気で頑張り屋の母に推薦の話を言い出せずに葛藤する。伊勢春慶塗の職人小倉久寛、ふるさと河崎を撮影しに来た男、なつみの幼馴染のかん太など登場人物は、周辺に魅力的な人物を配置しているが、ドラマの焦点は母娘の二人の心の揺れ動きである。ちゃんと話そうといいながら、お互い自分が民宿を支えていると言い張り,極言「くそばばぁ」と言ってしまう。しのぶは娘に「一度自分でやってみて!」と飛び出してしまう。河崎を再生するプロジェクトで絵を描くことを依頼されていたなつみは、悶々として絵を描くこともできない。ドラマの終盤で、民宿に飾ってあった河崎の絵は、実はしのぶが若いころに描いた絵。同じように好きだった絵をあきらめてどうして民宿をきりもみするようになったのか。そこを融和点として、仲直り。なつみは、レンガ作りの蔵でしのぶの笑顔にあふれた河崎の絵を完成させる。発表会で、なつみは「この河崎の街に生まれて本当に幸せです」と宣言する。
このドラマは、母娘の心の葛藤という普遍的テーマを、どこにもあるような会話を小刻みに重ねながら、美しいふるさとの風景をおりまぜながら描いていく。安っぽいコミカルタッチに陥らず、ありがちで図式的なふるさと描写も極力避けていたように思える。 アイススケーターが本職の本田望結が、勝気な女子高生を好演していた。多分スケートより才能があると断言できる。女将役の大塚寧々も、年を重ねた分、母親役としてはまり役だった。伊勢の方言を交えて、二人がうまく会話していたことも納得。特筆したいのは、伊勢河崎の魅力を引き出した映像美あふれる演出だった。運河沿いに自転車を走らすカットの多用。運河を隔てて会話をするなつみとかん太のシーンの瑞々しさ。レンガ作りの蔵の中でなつみが髪を染められるシーンの光線の美しさ。そしてラストは美大へ旅立つなつみの列車を自転車で追いかけるかん太など微笑ましいシーン。ワンシーンに心が熱くなったかつて日本映画の名作「祭りの準備」のような感覚を思い起こしてくれた。このドラマは、母娘の物語であり新たな出発の歌。ローカルドラマが、単なる密着ドラマでなくて、普遍的な心のドラマとして描いた出色の物語だった。 (クレソンおじさん)